
はじめまして。
株式会社アドグローブ ゲーム事業部でプランナーをしている岡田です。
今回は、私がキャリアコンサルタントの資格学習を通して出会った「傾聴」という姿勢をキーワードに、ゲームプランナーとして重要なコミュニケーションスキルについて考えてみました。
- はじめに
- そもそも「傾聴」とは?
- 事例1:「この仕様じゃ作れません」と言われたけど、対処できなかった時
- 事例2:「この方が面白い」と言われたけど、ピンとこなかった時
- 事例3:「なんかちょっと違う」が続いて、正解が分からなくなった時
- なぜゲーム開発に「傾聴」が必要なのか?
- おわりに
はじめに
「ゲームプランナー」と聞くと、一般的には「アイデアを出す人」「面白い企画を考える人」「チームを引っ張るリーダー」といったイメージを持たれがちです。もちろん、それらも大切な役割ですが、実際の現場では「他セクションと連携・調整をする人」としての動きが多くを占めていると感じています。
そのなかで、必ずと言っていいほど出てくるのがコミュニケーションのすれ違いです。
「伝えたつもりだったけど伝わっていなかった」「相手がなぜそう言っているのか分からない」という経験は、誰しもが経験しているのではないでしょうか。
その際に、「自分の考えを言葉にして伝える」という言語化のスキルは重要です。
しかし、それ以上に「聞く力」つまり「傾聴」が必要になってくるのではないかと私は感じています。
そもそも「傾聴」とは?
「傾聴(けいちょう)」とは、相手の話を注意深く聞き、共感をもって受け止める姿勢のことです。ゲーム業界ではほとんど聞くことはありませんが、カウンセリングの現場などで重視される言葉です。
参考までに、厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」にある説明を引用しておきます。心理学者ロジャーズによって定義された、「傾聴」の3要素です。
・共感的理解:相手の立場になって相手の気持ちに共感しながら聴くこと。
・無条件の肯定的関心:初めから否定することなく、なぜそのようなことを考えるようになったのか関心を持って聴くこと。
・自己一致:聴く側も自分の気持ちを大切にし、もし相手の話の内容にわからないところがあれば、そのままにせず聴きなおして内容を確かめ、相手に対しても自分に対しても真摯な態度で聴くこと。
傾聴とは|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
実践してみると意外と難しく、習得には練習が欠かせません。
ただし、これは「才能」ではなく「スキル」です。練習することで、誰でもある程度は身につけることができます。
本来の「傾聴」の学習では、相づちや態度などの姿勢作りから入るのですが、今回は相手への問いかけの例として、現場でよくある会話を取り上げます。
事例1:「この仕様じゃ作れません」と言われたけど、対処できなかった時
ある日、エンジニアから「この仕様じゃ、ちょっと作れませんね」という連絡をもらいました。「分かりました、見直します」と返事をして、仕様書を開いてみたものの、自分ではどこが問題なのか分かりませんでした。
「資料の書き方に問題があるのか?」「複雑な構造で工数の問題があるのか?」いろんな想像をしながら仕様書を書き直してみるものの、相手のリアクションはイマイチ。
このままだと実装が進まないので、結局ミーティングを行うことになりました。
| プランナー | 改めて聞きたいんですが、どの辺りが作れないと感じましたか? |
| エンジニア | この場合にダイアログを出すって書いてますけど、別のパターンの場合にどうなのかが分からないじゃないですか |
| プランナー | 別のパターン、というと? |
| エンジニア | Aの機能とか、Bの機能とか |
| プランナー | この仕様以外の機能ってことですか? |
| エンジニア | そうですね、全体で揃ってないといけないので |
| プランナー | そうなると、ダイアログが出る・出ないのパターンの整理が必要? |
| エンジニア | あ……そういうことです |
| プランナー | 分かりました。他の仕様の担当者と相談して、まとめるようにしますね |
この事例では、話を聞くことで「エンジニアが気にしていたのは、厳密には該当する仕様書ではなく、全体の挙動のルールだった」というのが分かりました。
会話してみると、数分で終わる話です。
ですが、弊社のようにリモートワークがメインのプロジェクトや、関係性ができていなくて質問しにくいプロジェクトだと、その会話が難しいこともあります。
このように「共感的理解」で話を聞くことで、相手の着眼点を知り、自分に足りなかった視点を補うことができる場合があります。こうしたお互いの理解が、プロジェクトの円滑化につながるのではないかと思っています。
事例2:「この方が面白い」と言われたけど、ピンとこなかった時
ある日、デザイナーから「ここの演出だけどさ、こうした方が面白いんじゃないかな」と言われました。その演出を使う場所は1箇所だけで、デザイナーの提案はかなり工数がかかる内容でした。そして何より、「何が面白いのか分からない」というものでした。
これでは正当性の判断がつかないし、作業の指示も出せないので、ヒアリングをすることにしました。
| プランナー | どう面白くなるか、もう少し詳しく聞かせてもらえますか? |
| デザイナー | なんかこう、テンポが悪い気がするんですよね |
| プランナー | テンポというと、ゆっくりすぎるってことですか? |
| デザイナー | うーん……自分だったら、こうすると思うんだよね……(絵を描く) |
| プランナー | なるほど、エフェクトがもう少し目立った方がいい? |
| デザイナー | そんな気がしますね |
| プランナー | それなら、演出の順番を変えてみてもいいかもしれませんね |
| デザイナー | そうかなぁ…… |
| プランナー | 試しにやってみますね。……これでどうでしょうか? |
| デザイナー | エフェクトが最初に出るようになったから、テンポが良くなった気がする! |
| プランナー | それじゃあ、他の場所も同じように調整しておきますね |
この事例では、話を聞くことで別の解決策が見つかりました。
ゲーム開発では、技術面・工数面での「できる」「できない」が先行しがちです。しかし、実際にはいろんな解決策がある場合もあります。その多くは、こういった会話の中で見つかると感じています。
その第一歩として、まずは「傾聴」で重要な「自己一致」の考えに基づいて、自分が納得できるまで話を聞けるようになるのが重要だと思っています。
事例3:「なんかちょっと違う」が続いて、正解が分からなくなった時
事例2よりさらに難しい、「なんか違うんだよね」というパターンもあります。
ディレクターから「このキャラクターのセリフ、なんか違うんだよね」と言われて調整を試みたものの、何度直してもOKがもらえない。やり取りが続くうちに、こちらも何がダメなのか分からなくなり、迷走し始めてしまいました。
そこで、一緒にプレイしながら「何を感じているのか」を探ることにしました。
| プランナー | 気になるのは、ここのセリフですよね |
| ディレクター | そうなんだよね、やっぱりなんかちょっと違う |
| プランナー | 改めて、どういう点が気になりましたか? |
| ディレクター | ほら、このキャラクターがこっちを向いているところ |
| プランナー | 向き、ですか? |
| ディレクター | 相手が別の場所にいるのに、画面に向かって話してるのがおかしいと思って |
| プランナー | あ、このセリフは独り言なんです |
| ディレクター | え、そうだったの? |
| プランナー | 独り言を言っているところに、相手が声をかけるっていうシーンですね |
| ディレクター | てっきり、2人で会話しているんだと思ってたよ |
| プランナー | 今のカメラのせいで、そう見えたのかもしれませんね |
| ディレクター | 確かに、セリフじゃなくて、カメラの問題かも |
| プランナー | それじゃあ、カメラを調整して独り言だと分かるようにしてみますね |
| ディレクター | うん、それなら大丈夫だと思う |
この事例では、同じものを一緒に見て確認することで、違和感の原因を突き止めることができました。
結局は「勘違い」という結論でした。しかし、実際にプレイヤーが初めて見る時にも同じように感じる可能性があるので、対応することにしました。
このように、「肯定的関心」を持って話を聞くことで、客観的な意見をもらえたり、貴重なフィードバックをもらえる場合は多いと感じています。
なぜゲーム開発に「傾聴」が必要なのか?
ゲーム開発は、明確な「答え」のない作業の連続です。
そして、デザイナー、エンジニア、プランナーなど、様々な専門性と価値観を持つ人たちとひとつのものを作っていくことになります。同じプランナーという職種であっても、好きなゲームや得意なゲームなどが違えば、重視する内容も異なります。
こうして、視点の違う人たちが関わる現場。それなのに、「前提」や「背景」の共通理解がないまま具体的な作業に入ってしまうことも多いように感じます。共通理解がないことが原因で生まれた食い違いは、お互いに疲弊する結果につながりがちです。
プランナーはそんな中で、仕様を決め、実装の方向性を定め、各セクションをつなぐ役割を担います。
自分の「当たり前」や「面白さ」を自覚して言語化しておくと同時に、他のメンバーの「当たり前」や「面白さ」にも関心を持って接していく姿勢が必要なのではないかと思っています。それを実現するために、身に着けておくと便利なもののひとつが「傾聴」だと私は思っています。
おわりに
今回は、ゲーム開発に必要な「聞く力」として「傾聴」についてご紹介しました。
紹介した事例は「これくらい聞けば分かるだろ!」という風に見えるものばかりです。
ですが、忙しかったり遠慮があったり、そもそも関係性ができていなかったり、実際の現場ではなかなかできない場面も多いなと感じています。
「何を言っているのか分からない」と思ったときに、一歩踏み込んでみる。
自分にとって当たり前のことでも、改めて確認してみる。
この記事を読んで、いつもよりもう少しだけ「相手の話を聞いてみよう」と思うきっかけになれば幸いです。