PMのためのAIプロンプト設計~Geminiで導く「構造化思考」と「業務効率化」~

こんにちは。
株式会社アドグローブ ソリューション事業部 PMの池ヶ谷です。

プロジェクトマネジメントは日々、予期せぬ変更との戦いです。特に「スコープ変更」は、迅速な意思決定が求められる大きな課題です。
本記事では、AI(Gemini)で思考を構造化し、業務を効率化するパートナーとして活用する方法をご紹介します。鍵となるのは「4つの要素」を用いたプロンプト設計と、それによって「構造化されたアウトプット」を引き出す技術です。


AIから「構造化された思考」を引き出す4要素

AIから実用的な「構造化されたアウトプット」を引き出すには、質問の設計が不可欠です。以下の4要素を組み合わせることで、AIは分析レポートを出力するパートナーへと変貌します。

1. 役割:回答の視点を定義する
AIに特定のペルソナ(役割)を与え、回答の視点と専門性を固定します。 今回は、AIを「もう一人の経験豊富なPM」として設定します。

2. 文脈:判断の前提となる情報をインプットする
プロジェクトの背景、目的、スコープ変更の要求内容、制約条件といった、判断の前提となる情報を具体的かつ客観的に与えます。ここで、プロジェクト名、関係者の役職、具体的な機能名や数値といったプロジェクト固有の情報を盛り込むほど、AIから得られる回答の解像度は高まり、より実践的になります。

3. 指示:実行させたい分析タスクを明示する
「影響を分析せよ」「代替案を提示せよ」「リスクを評価せよ」など、AIに実行してほしいタスクを明確に伝えます。

4. 制約と形式:アウトプットの構造を指定する
アウトプットの形式(テーブル、箇条書きなど)や、守ってほしいルールを指定します。これが、思考を構造化する上で極めて重要な要素となります。

目標

AIを活用し、よくある3つのシナリオを通し、「典型的なプロンプト」と「設計されたプロンプト」が、いかにして構造化されたアウトプットを生み出し、業務効率化に繋がるかを検証します。

シナリオ① :緊急の機能追加

課題
結合テスト中にクライアントから「競合他社で提供されているようなポイント管理機能」の追加を強く要望されました。しかしリリース日と予算は厳守です。品質を担保しつつ、どう代替案やトレードオフを提示し、交渉しますか。


典型的なプロンプト (Before)
結合テスト中にクライアントからポイント管理機能の追加を要望されました。納期も予算も変えられないのですが、どう対応すればいいですか?

Geminiの回答例

ポイント機能のような顧客エンゲージメントを高める機能の追加は、ビジネス価値が高いと判断されがちです。まずは、その要件が既存の機能やテスト計画に与える影響を冷静に分析してください。その上で、クライアントと要件の優先順位を再設定し、スコープのトレードオフ(何かを諦めて何かを得る)について交渉する必要があります。ステークホルダーとの密なコミュニケーションが、プロジェクトを成功に導く鍵となります。


設計されたプロンプト (After)
# 役割
あなたは、私と同様に20年以上のシステム開発経験を持つ、ベテランPMです。豊富な経験に基づき、単なる正論だけでなく、現場で通用する実践的かつ戦略的なアドバイスを期待しています。

# 文脈
・プロジェクト状況:現在、システム開発プロジェクトは結合テストフェーズに差し掛かっています。
・課題:主要クライアントから、「競合他社で提供されているようなポイント管理機能」を追加してほしいと、非常に強いプレッシャーを受けています。
・絶対的な制約:リリース日と予算は、経営層もコミットしており、一切の変更が認められません。
・ゴール:プロジェクトの品質を絶対に担保しつつ、クライアントの要望に応えるための代替案やトレードオフを複数提示し、Win-Winの形で交渉を妥結させたい。

# 指示
・この状況を打開するために、クライアントに提示できる代替案を、具体的なアクションプランとリスク対策を含めて提示してください。

# 制約と形式
・回答は、まず交渉の基本スタンスから述べ、提案内容を表形式で分かりやすく整理してください。

Geminiの回答例

項目 提案内容 具体的なアクションとリスク対策
交渉の基本スタンス 「品質は絶対に妥協しない」という姿勢を明確に伝えます。その上で、「ご要望になんとか応えたい」という協力的な態度で、共に解決策を探すパートナーとしての立場を強調します。 アクション: 交渉の前に、追加機能が既存機能へ与える影響(デグレード懸念、テスト工数増など)を精査し、客観的なデータを持って臨みます。
選択肢1:スコープ交換案 内容: 今回リリース予定の機能から、比較的優先度の低い機能(例:管理画面の高度な統計機能)のリリースを延期し、その開発リソースを「ポイント管理機能」の開発に振り向けます。 リスク対策: 延期対象の機能が、実は他の重要機能と密接に関連していないか、依存関係を徹底的に再調査します。クライアント内の合意形成を支援するため、機能の優先順位付けワークショップを共同で実施します。
選択肢2:MVPでの段階的リリース案 内容: 「ポイント管理機能」を、必要最小限のコア機能(例:購入額に応じたポイント付与と、次回購入時の利用)に絞って今回リリースし、リッチな機能(例:会員ランク別付与率、ポイント有効期限通知)は次期フェーズで開発します。 リスク対策: 「MVPの範囲」に関する認識齟齬を防ぐため、動的なプロトタイプを作成し、操作感を体験してもらった上で合意します。次期フェーズの開発スコープと概算費用を「覚書」として書面で交わし、期待値をコントロールします。
選択肢3:次期開発での対応約束案 内容: 今回の「ポイント管理機能」の追加は見送り、現行スコープでのリリースを最優先します。その代わり、次期開発プロジェクトとして「ポイント管理機能」の開発を正式に約束します。 リスク対策: クライアントの失望感を和らげるため、次期開発の具体的なスケジュール案と体制案を提示します。「現行プロジェクトの品質維持が、お客様のビジネスにとっても最善の策である」ことを論理的に説明し、開発の約束を書面で交わします。


シナリオ② :外部APIの仕様変更

課題
開発中に連携先の外部API仕様が変更され、大幅な追加工数と納期遅延が確実になりました。この不可抗力によるスコープ増とQCDへの影響を、どうクライアントと交渉しますか。


典型的なプロンプト (Before)
開発中に使っている外部APIの仕様が変わって、追加の作業が必要になりました。このままだと納期に間に合いません。どうすればいいですか?

Geminiの回答例

外部APIの仕様変更はプロジェクトのリスクの一つです。まずは影響範囲を正確に調査し、API提供元へ詳細を確認してください。その結果を基に、クライアントへ速やかに状況を報告し、納期延長や追加予算、機能縮小といった対応策を協議する必要があります。


設計されたプロンプト (After)
# 役割
あなたは、私と同様に20年以上のシステム開発経験を持つ、ベテランPMです。技術的な知見と、クライアントとのシビアな交渉経験を豊富に持っています。実践的な交渉戦略を授けてください。

# 文脈
・プロジェクト状況:決済機能を持つWebシステムの開発フェーズ中盤。
・課題:決済処理で利用する外部APIが、提供元から一方的に大幅な仕様変更を通告されました。
・影響:このままでは、約1.5ヶ月の納期遅延と4人月相当の追加工数が発生します。
・契約条件:契約上、当社の責に帰すべからざる事由による遅延は、別途協議と定められています。
・ゴール:クライアントに状況を理解してもらい、円満に納期と予算の変更に合意したい。

# 指示
・この危機を乗り切るための、現実的な選択肢を複数提示してください。具体的なアクションプランとリスク対策まで含めてください。

# 制約と形式
・回答は、クライアントへの報告姿勢と、具体的な選択肢を比較検討表の形式で整理してください。

Geminiの回答例

項目 内容・戦略 具体的なアクションとリスク対策
クライアントへの報告姿勢 「問題報告」ではなく「共同での課題解決依頼」と位置づけます。客観的な事実と、それによる影響(工数・期間)を定量的に説明し、「この状況を解決するため、最善策を共に考えたい」と前向きな提案に繋げます。 アクション: API提供元からの公式通知、仕様変更ドキュメント、そして我々が行った影響分析レポート(追加工数4人月、遅延1.5ヶ月の根拠)を資料として準備し、報告の客観性を担保します。
選択肢1:納期延長と追加予算(正攻法) 内容: 仕様変更対応に必要な工数と期間を、プロジェクトの追加予算・期間として正式に認めてもらう最も誠実な案です。
ポイント: 品質の維持を最優先できますが、クライアント側の負担増が課題となります。
リスク対策: 詳細な見積書とWBS(作業分解構成図)を提示し、費用の妥当性を明確にします。クライアントの予算確保を支援するため、分割払いや来期予算での計上など、支払い方法の相談にも応じる姿勢を見せます。
選択肢2:スコープ内でのリソース捻出(次善策) 内容: 追加予算が難しい場合、当初スコープ内の別機能(例:ユーザー行動分析機能など、決済フローから独立している機能)の開発を延期し、その工数をAPI改修に充てます。
ポイント: 納期への影響は抑えられますが、全体の機能が縮小されます。
リスク対策: 延期対象の機能依存性を徹底的に洗い出し、手戻りリスクを排除します。「スコープ変更合意書」を正式に締結し、延期する機能と、その将来的な開発の扱いについて双方で合意します。
選択肢3:暫定対応と段階的改修(限定策) 内容: APIの旧仕様が一時的に利用可能なら、それで一度リリースし、新仕様への本格対応は保守フェーズで行います。
ポイント: 納期は守れますが、技術的負債を抱えるリスクがあります。
リスク対策: API提供元に、旧仕様の提供期限を書面で確認し、確約を得ます。暫定対応の設計が将来の本格改修を妨げないよう、技術的負債を最小限に抑えるアーキテクチャを検討・提示します。


シナリオ③ :曖昧な要求と手戻り

課題

クライアントのUI/UX要求が曖昧なため手戻りが多発し、スコープが固定できずコストと納期を浪費しています。早期にワイヤーフレームの確定をもって、スコープの最終合意をとり、QCDの悪化を食い止める必要があります。


典型的なプロンプト (Before)
クライアントの要求が曖昧で、設計の手戻りが多くて困っています。スコープがなかなか固まりません。どうすればいいですか?

Geminiの回答例

要件定義の曖昧さはプロジェクトの大きなリスクです。クライアントへのヒアリングを強化し、要求を具体化・文書化してください。ワイヤーフレームなど視覚的なツールで認識を合わせ、合意した内容については変更管理ルールを設けることが有効です。


設計されたプロンプト (After)
# 役割
あなたは、私と同様に20年以上のシステム開発経験を持つ、ベテランPMです。クライアントとの関係性を維持しつつ、困難なプロセス変更を導入する交渉術に長けています。

# 文脈
・プロジェクト状況:Webサービスの画面設計フェーズ。
・課題:FigmaでWFを作成すると、「イメージと違う」という指示が多発し、手戻りで工数を浪費しています。
・ゴール:これ以上の手戻りを防ぐため、「WFのFIXをもって、UI/UXの最終合意とする」というプロセスルールを厳密化し、クライアントに納得してもらいたいです。

# 指示
・このプロセス変更を「より良いプロジェクトの進め方の提案」として、クライアントに納得してもらうため、具体的なアクションやツールにも言及した提案要点のサマリー表を作成してください。

# 制約と形式
・提案の目的が「お客様の理想のシステムを、最短距離で実現するため」であることが伝わるようにしてください。

Geminiの回答例

項目 提案内容・目的 具体的なアクションとツール
現状の課題 FigmaでWFを提示しても認識齟齬が生まれ、設計の手戻りが多発しています。このままでは、コスト増と納期遅延のリスクがあります。 アクション: 具体的な手戻り事例(例:A画面で3回、B画面で4回の手戻り)と、それによる浪費工数(例:合計XX時間)をデータとして提示し、課題の深刻さを客観的に共有します。
提案する新プロセス 「ワイヤーフレーム(WF)のFIX」をもって、該当画面の仕様に関する最終合意とします。 アクション: Figmaのコメント機能やプロトタイピング機能を最大限に活用し、クライアントが具体的なフィードバックを画面上に直接書き込めるようにします。そして、WFのFIX時には、Figma上の全コメントが解決済みであることを確認した上で、関係者全員の署名を得るプロセスを導入します。
お客様のメリット 1.イメージの具体化: 完成形を開発の早い段階で正確に把握でき、「完成したらイメージと違った」という最大のリスクを防げます。
2.スケジュールの遵守: 手戻りがなくなることで開発が効率化し、納期通りに高品質なシステムをお届けできます。
アクション: このプロセスによって、過去のXX時間の手戻りが今後発生しなくなるため、結果的にコスト削減と納期遵守に繋がる、という費用対効果を具体的に説明します。
FIX後の変更について お客様のビジネスにとって重要な変更は、正式な「仕様変更」として扱います。影響範囲(追加の工数やスケジュール)を都度お見積りし、ご承認の上で対応することで、プロジェクトの透明性を担保します。 アクション: シンプルな仕様変更依頼フォームを準備し、変更依頼のプロセスを標準化します。軽微な文言修正など、無償で対応する範囲も予め定義しておくことで、クライアントの不満を和らげます。
提案のゴール このプロセス変更は、お客様の理想のシステムを、手戻りなく最短距離で実現するための、最も確実な方法です。 -


思考の効率化は「構造化アウトプット」から生まれる

3つのシナリオから、プロンプトの具体性とアウトプットの構造化レベルが比例すると分かりました。漠然とした質問では、AIは非構造的な回答しかできず、PMの効率化には繋がりません。

一方「設計されたプロンプト」は、4要素が思考のフレームワークとして機能し、特に「表形式」の指定が情報の構造化を促します。

得られた表形式のアウトプットは、実務で活用できる「構造化されたアウトプット」であり、資料作成の時間を大幅に短縮し、業務を劇的に効率化します。このプロンプト設計スキルは、PM自身の思考を整理する絶好の訓練にもなります。


AIで思考を構造化し、意思決定を加速する

PM業務効率化の鍵は、AIに「構造化されたアウトプット」を生成させることです。その確実な方法が、「役割」「文脈」「指示」「制約と形式」の4要素をプロンプトに落とし込むことです。

「設計された質問」は、複雑な問題を瞬時に構造化し、PMに比較可能な選択肢を与えます。これにより、データに基づく迅速な意思決定が可能になり、そのスピードと質は劇的に向上します。

AIを使いこなすとは、便利な答えを得るだけでなく、AIに思考を構造化させ、生まれた時間をより高度な判断に活用すること。これこそが、新しい時代の業務効率化の技術です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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